あなたの心配・不安にこたえます。くまもとアレルギー相談室 @熊本県アレルギー疾患対策拠点病院

アトピー性皮膚炎

自分や家族がアトピー性皮膚炎と診断されたら、ショックですよね。アトピー性皮膚炎の原因は何なのでしょうか? 治療すれば治るのでしょうか? 
アトピー性皮膚炎の方は、身体中がカサカサして、かゆくなります。湿疹がいろんな場所にでき、かゆみが強くなると、人前でも無意識にかいてしまうほどです。かいた湿疹がさらに悪化して、またかゆくなるという悪循環に陥ってしまいます。
軽症の方は適切な塗り薬(外用剤)で良くなる場合が多いのですが、中には外用剤で思うように改善しない重症の方もいます。最近は重症の方のための注射剤も使えるようになっています。

1.症状

年齢によって、湿疹のでやすい場所も変わります。乳児期は顔に症状が強く出ることが多いです。また、小児期までは、ひじ・ひざなどくぼんだ部分に湿疹がでます。成人期になると症状が慢性化して治りにくくなってきます。いかに、早い段階で適切な治療を行なって病気をコントロールし、次の段階に進まないようにするかが大事です(図1)。




ひじの湿疹はそれほどひどくないように見えますが、湿疹を繰り返すことで「苔癬化」という、皮膚が厚く盛り上がった状態になっています。慢性化のきざしです。

2.原因

皮膚が乾燥するのが始まりです。皮膚のバリア機能が低下するので、外界からさまざまなアレルギーのもとになる物質が皮膚に入ってしまいます。そうするとかゆみが出て、引っかいてしまい、湿疹になります。するとさらに痒くなって、という悪循環に入ります。
では、なぜ皮膚が乾燥してしまうのか。最近の研究で原因の一部が分かってきました。
アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、遺伝的にフィラグリンという皮膚の保湿に関わる重要な分子に異常がある方がいるのです。アトピー性皮膚炎の患者さん全員の原因がフィラグリンというわけではありません。しかし何らかの原因で皮膚のバリア異常を持った方、言い換えると、生まれつき乾燥肌の人が、アトピー性皮膚炎を発症しやすいと考えられています。

3.診断

アトピー性皮膚炎は、良くなったり、悪くなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹を主病変とする疾患であり、患者さんの多くはアトピー素因を持つ、と定義されます。
アトピー素因とは、1)家族歴・既往歴(気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)、または 2)IgE抗体を産生しやすい素因、とされています。
診察で一目見て診断がつくことが多いですが、中には、アトピー性皮膚炎のように見えて、まったく違う病気だったり、金属アレルギーなどの接触皮膚炎(かぶれ)だったりすることもあり、治りにくい場合は、しっかりと専門医に診てもらう必要があります。

4.治療

皮膚のバリア機能異常が原因ですので、乾燥肌に対して保湿をすることが大事です。ただし、湿疹になってしまった場合は保湿剤だけではなかなか治りません。皮膚の炎症を抑える外用剤を塗る必要があります。私は、「家が火事で燃えているときに、バケツで水をかけてもだめ」と説明しています。そういうときは、消防車を呼んだ方がいいに決まっています。
昔はステロイド外用剤しかなかったので、重症の方の治療に困ることもありました。今はステロイドではない外用剤や、アレルギー反応をおこすT細胞の働きを抑える注射剤など、効果のある薬がどんどん開発されています。その方の重症度に合った治療を選択することが大事です。

5.治療のゴール

アトピー性皮膚炎って治るのでしょうか? 私の外来に来られる患者さんの中には「アトピー性皮膚炎は治らないと聞きました」と涙ながらに言われる方もいらっしゃいます。それは、治るということの意味、治療のゴールを設定していないことからくる間違いです。
アトピー性皮膚炎の原因は、生まれつきの乾燥肌体質です。この体質は現在の医学ではまだ変えられません。でもそれは、髪の毛がうすいとか、ニキビができやすい体質とかと同じようなことではないでしょうか。体質自体は変えられなくても、湿疹は適切に治療すれば治ります。いま体に湿疹はなく、かゆみもない。乾燥肌があるから保湿剤などによるスキンケアは必要だが、特に支障なく日常生活は送れている。「あれ?今日は自分がアトピー性皮膚炎であることを意識せずに1日すごしてたな」とふと気づく。これが治療のゴールではないでしょうか。だとすると、アトピー性皮膚炎は治ります。

熊本大学病院
皮膚科・形成再建科
アレルギー専門医

准教授 福島聡

・日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
・皮膚悪性腫瘍指導専門医
・日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・日本臨床免疫学会認定免疫療法認定医